熱気球の歴史

フランスのモンゴルフィエ兄弟は、暖炉の熱気に煽られた洗濯物を見て、火を燃やした時に出る煙に空気より軽い成分(空飛ぶ魔力)があると信じました。そしてこの煙を集めれば人間も空を飛べると考えて作ったのが熱気球です。小動物を乗せて実験を繰り返した兄弟は、1783年11月21日、遂に人類史上初の有人飛行を熱気球で成功させました。

同じ頃、フランスのシャルル教授も水素ガスを詰めた「ガス気球」による有人飛行をめざしていましたが、実験が成功したのは熱気球から遅れることわずか10日後。人類初飛行の栄誉は「熱気球」のものとなりました。そして120年後の1903年、ようやくライト兄弟による「飛行機」が登場します。

熱気球とガス気球はその発明後しばらくブームとなりますが、飛行船や飛行機の登場により、空の活躍舞台からは消えてしまいます。ただし、ガス気球は一部の裕福な人達によりスポーツとして愛好され続けました。水素ガスは高価で、非常にお金のかかる趣味だったのです。(ちなみに現在のガス気球や飛行船で使用されているガスは、爆発の危険がないヘリウムガスです)

第2次世界大戦後、軽くて丈夫な化学繊維(ナイロン、ポリエステル)の発達と、安価なプロパンガスを使って効率よく空気を暖められるバーナーの開発により、熱気球はスカイスポーツとして復活しました。

熱気球の仕組み

熱気球は大まかに右図の様な構造をしています。

・球皮(エンベロープ)は大きな空気の袋
・中の空気を加熱するバーナー
・人や燃料・計器等を積むバスケット

球皮は、丈夫なロードテープの骨組みにナイロンなどの布のパネルを縫いつけて作られます。天頂部にはリップバルブという排気弁があり、バスケットまで垂れたリップラインというひもを引くと、この排気弁が開いて中の熱気が抜けるようになっています。(ひもを離すとリップバルブは再び閉じます)パネルに使うナイロンは軽くて丈夫ですが火には弱いので、バーナーに近い部分だけは燃えにくい特殊な布を使います。ちなみに球皮の中の空気の温度は、外気温や搭載重量にもよりますが、大まかには70℃から100℃位の間です。

バーナーは、シリンダー(燃料ボンベ)から取り出した液化プロパンガス(LPG)を強烈に燃焼させます。(一般家庭のコンロに比べると1000倍以上の出力があります)

バスケットは一般的に籐(とう)で編んだものが多く使われています。籐は軽量な上、着陸時に地面にぶつかるような場合は籠自体がたわんで衝撃を吸収してくれるという利点があります。(フライトの目的等によっては金属製やFRP製のバスケットが使われる場合もあります)

熱気球の形

一般的な熱気球の球皮は、上が大きく下がすぼまった逆水滴型をしています。これは、より小さい表面積(=少ない布→軽量化)で最大の浮力を得られ、安定してふくらむ形なのです。

【シェイプト・バルーン】

動物や車、建物、あるいはドラえもんのようなキャラクターといった、様々な形をした熱気球もあります。これらは、シェイプト・バルーンと呼ばれるものです。複雑な形のものは、細かいところをきちんと膨らませるために中が2重・3重に仕切られているので、通常の熱気球に比べて重く準備や回収作業も大変ですが、注目度も抜群で熱気球大会やイベントで人気を集めています。

熱気球の大きさ

一口に熱気球といってもいろいろな大きさがあります。ここでは、日本で一番よく使われている、球皮部分の体積が2000立方メートル前後の熱気球の場合を見てみましょう。(熱気球は球皮部分の体積でクラス分けされます)

このクラスの熱気球は、膨らました状態で横幅は約15m、高さはバスケットの下から球皮のてっぺんまで20mくらいです。(建物ならマンションの7階くらいの高さ)重さは、球皮だけで90Kg前後。これにバスケットやバーナー、その他の機材と燃料ボンベ(3、4本積む)の重さを加えると300Kgくらい。

たたむと布団袋くらい

2000立方メートルの熱気球は、(外気温などの条件にもよりますが)だいたい全体で500Kgくらいを浮かせることが出来るので、残りの約200Kgが人間の乗れる余地ということになります。(体重の軽い子供ならば大人よりも人数が乗れる計算になりますが、だからといってバスケット内のスペースには限りがあるので、20Kgの子供なら10人乗れる、ということにはなりません…)※上記の数字はあくまでも目安で、季節などの条件によって大きく変わります。

広げるとこんなに大きい

実際の熱気球は、一人乗りの小さなものから十数人乗りまで大きさも様々で、海外には観光用に数十人乗りという巨大なものもあるそうです。

フライトの準備

熱気球の機材は大きく重いので、準備するのには人手が必要です。パイロット一人では離陸準備も着陸後の回収も出来ません。(仲間と力を合わせて初めて出来るスカイスポーツなのです)普通4人から5人で気球の準備をすれば、15分から30分程度で離陸出来るでしょう。

日本での標準サイズの気球(2~4人乗り)一式なら、ワンボックスタイプの車の荷室に収まります。この車にチーム4~5人が乗って一台で移動するのが普通です。

  1. 離陸地を決め、そこに移動する
  2. 機材を車から降し、バスケット、バーナー、球皮をつなぐ
  3. 球皮に十分空気を入れ、バーナーで中の空気を加熱する
  4. 加熱された空気は非常に軽いため、気球の頭だけが持ち上がってしまわないよう、クラウンロープ(球皮のトップにつながっている)を引いて押さえる。
  5. 気球が十分に膨張したら、ゆっくりクラウンロープを緩めて気球を立ち上げる
  6. 気球が完全に立ち上がったら、計器・地図等の機材を積み込む
  7. フライトするクルー、気球を追跡・回収する地上クルーに分かれて「いざ、テイクオフ」


熱気球の操縦

熱気球は「風まかせ」です。風の流れる方向に風の速さで飛行するだけで、自由に方向を変えることは出来ません。バーナーで球皮内の空気の温度を変え、上昇・降下のコントロールだけ行います。

地上にいると気付きませんが、上空にはいろいろな風が吹いています。風の向き・速さが「高度」「場所」「地形」「時間」によって「大きく」または「微妙に」違います。この風の違いを使い分け、熱気球を上下させて行きたい方向の風をさがし、あるいはいろいろな方向の風を組み合わせて目的地をめざします。ただし、風は目に見えませんから、単純に「使い分ける」と言っても決して簡単なことではありません。

バーナーを焚けば上昇、焚かないでいると中の空気が冷めて降下する。
リップラインを引いて天頂部の排気弁を開けると熱気が抜けて急降下。
水平に飛ぶ(レベルをとる)ことは熱気球操縦の基本。飛行高度を一定に出来ないと、乗せていたい風の層をはずれてしまいます。

しかし熱気球は大きいためバーナーを焚いてもすぐには反応しないので、そのタイムラグを見越してバーナーを焚き高度をコントロールします。行きたい方向の風の高度にぴたりと合わせるのは、かなり高度な技。(だからこそ「競技」にもなるのです)

各機材の詳細

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